疑問を挟む余地がない解釈に挑む
出雲の民を喰らうヤマタノオロチはスサノオに細切れにされた。尾を斬った時、スサノオの剣が欠けたので尾を切り裂いて確かめてみる、天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)が出てきた。天叢雲剣はアマテラスに献上され、ヤマトタケルの手に渡り草薙剣(クサナギノツルギ)と名を変えて三種の神器の一つになる。
この話は、製鉄に優れていた出雲族が渡来勢力によって敗れたことを神話にしたとされている。
出雲に元々いたヤマタノオロチが出雲族で、スサノオが渡来勢力。天叢雲剣は鉄だったから、スサノオの銅の剣が欠けた。鉄の文化と銅の文化の戦いだった等々、ヤマタノオロチ神話を調べてみるとこういった解釈をされているのをよく見るが、それでは神話を直接的に読みすぎていて楽しくない。せっかくなら王道を外れた解釈で神話を読み解いていこう。
記紀にない神・八束水臣津野命(ヤツカミズオミノミコト)
古事記・日本書紀だけ読むと王道に行きついてしまうから、出雲国風土記から探っていこう。
風土記にスサノオの名はあるが蛇を退治した話はない。そのかわり、ヤツカミズオミノミコトという神が大活躍をする。話した言葉が出雲の名の由来になったり、隣の国から土地を引っ張って出雲を大きくしたり(国引き神話)、数々の逸話がある。記紀のスサノオのエピソードとよく似たものもある。
出雲では有名な神だったようだが、記紀の出雲神話には出てこない。記紀の出雲神話で主人公と言えるのはスサノオ・オオクニヌシの二柱だけだ。なぜ、ヤツカミズオミノミコトは消されたのか?いや、消されてはいない。ヤツカミズオミノミコトこそがヤマタノオロチなのだから。
新解釈・出雲神話
西出雲王・ヤツカミズ(意宇・島根・出雲の三郡に逸話あり)と東出雲王スサノオの間に争いが起きた。争いはヤツカミズが優勢だったが、ヤツカミズの将軍であるオオクニヌシが裏切りスサノオについたことでヤツカミズは破れた。
統一出雲王となったスサノオ。スサノオの娘と結婚して二代目統一出雲王となったオオクニヌシ。
以上の神話が出雲にあったとしたら、大和朝廷はどう作り替えただろうか。考えてみよう。
大和による出雲神話
記紀の目的は王権の正当性を国内外に訴えるものだから、各地に伝わる神話を都合よく脚色やつぎはぎをしたことは間違いないだろう。では出雲神話はどう変えられたのか?
正当性が欲しい大和朝廷は、統一出雲王のスサノオをアマテラスの血縁者とし、義理の息子であるオオクニヌシが国を譲る(統治権を返す)のは当然とした。さらに権威を高めるためと出雲への配慮のためにスサノオを英雄に仕立て上げることを考える。
ヤツカミズの名は八と水に分けられる。ここから八つの首を持つ大蛇を作り上げたのではないか?蛇は水とかかわりが深く、国津神には蛇の化身が多いことから連想は簡単だっただろう(魚類は神武天皇の母と祖母にしたため使えない)。国土を作り替える国引き神話は住みよい国作り程度に作り替えられて、その役割もスサノオとオオクニヌシに割り振られた。
味方だったオオクニヌシの裏切りは、ヤマタノオロチから剣が出たということにした。身内から刺されたということだ。剣はアマテラスに献上されるが、ここでも出雲のものはアマテラス=大和朝廷に譲るものと強調している。
こじつけと拡大解釈による神話の読み解きだが、記紀の編纂者も同じようなことをしていたはずだと思うと記紀を読むことがさらに楽しくなった。これからも新しい読み解きに挑戦したいと思う。