奈良県明日香村の亀石

櫓の鐘だけが緊急を告げるわけじゃない

地震が起こる少し前、ゲリラ豪雨で氾濫や土砂崩れが起きそうなとき、スマホから警報音が鳴り響く。周りの人のスマホも一斉に鳴るものだからうるさく感じるときもあるが、アラートのおかげで早めの行動をとることができる。数々の災害を乗り越えて発明されたものだが、それは本当に現代で生まれたものだろうか?
違う。古代にも危機予測するものがあった。亀石だ。

奈良盆地を泥沼に変えてやる

奈良県明日香村にある亀石は現在、南西を向いているが西を向くと奈良盆地は泥沼に変わるという伝説がある。
村同士の争いが亀石の作られた理由だ。どちらも引っ込みがつかなくなったのか、争いの果てに湖の水を抜くという暴挙に出る。結果、湖に棲んでいた多くの亀が死んでしまい、哀れに思った人が供養のために作ったのが亀石だという。
「人間の争いに巻き込まれた亀さんかわいそう、人間なんか泥沼に沈めちゃえ」で終わるわけにはいかないのが古代史の裏読みに憑りつかれた者の性だ。

甲羅占いは神亀との会話だ

古代から未来を読む試みは行われていた。その一つが亀の甲羅や動物の骨を熱することで入った亀裂の意味を読み解く卜占だ。
亀は動きが遅く、顔も年寄に見えることから万年生きると言われるほど長生きとされた(実際長生きで日本固有種のニホンイシガメは20年~30年程度の寿命らしい)。長生きとなると物知りだろうということで、知恵にあやかりたいところだが亀と人は話すことができない。ならば、体に直接聞いてやろうということで編み出したものが亀の甲羅占いだ(諸説に入ることもできそうにない説)。

奈良は今日も平和だね

奈良でも甲羅占いをやっていたのだろう。占いと言っても現在の星座占いや手相占いとは違う。生きるか死ぬかがかかったものだ。当然、真剣にやる。すると占いは儀式や祭祀のようなものになり大掛かりになっていく。大掛かりになるほど使う道具も大きくなっていくのは、大型化していく銅鐸や銅剣が証明している。
甲羅も大きいものを求めて海亀の甲羅も使ったことだろう。未来を知りたいという欲求は留まることを知らず、ついには人工の巨大亀を作った。それが亀石だ。
しかし、人工の亀もまた人間の都合に振り回されることになる。人は今も昔も新しい物好きだ。新しい占いが入ってくると亀石は人々に忘れ去られてしまった。時は流れて亀石の用途は分からなくなり、形から連想できる伝説が生まれた。
悠久のときを生きる亀が人間への憎しみを募らせて本当に奈良盆地を沈めないように、前を通る人は軽くでもいいから頭を撫でてやった方がいいかもしれない。見守ってくれてありがとう、と。